シーリングに医師偏在対策の効果はあるのか?

専門医制度

2018年度から始まった日本専門医機構による新しい専門医制度では医師偏在対策としてシーリングという制度が導入されています。シーリング(ceiling)とはもともとは「天井」、「最も高い値」などという意味がありますが、専攻医研修制度における「シーリング」は「診療科ごと、都道府県ごとに設定された採用定員」と解釈して良いでしょう。

2025年度のシーリングについての解説はこちらをご覧ください。

日本専門医機構における専門研修プログラムのシーリングは、医師の地域偏在対策に効果があるのでしょうか?シーリングの医師偏在対策に対する効果についての調査結果が公表されていますので、紹介したいと思います。

この調査の公表されている資料についてはこちらをご覧ください。
令和6年度第1回医道審議会 医師分科会医師専門研修部会資料3シーリングに関する研究の報告
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001277155.pdf

シーリングによる採用者数への影響

シーリングのある診療科では医師多数県における採用者数が抑制され、医師少数県、医師中程度県における採用者数が増加しています。この間の医師国家試験の合格者数は増加傾向ですので、シーリングによる診療科、医師多数県での採用者数増加の抑制効果はあると考えられます。シーリングのない診療科では医師多数県、医師少数県、医師中程度県のいずれにおいても採用者数が増加しています。

令和6年度第1回医道審議会 医師分科会医師専門研修部会資料3 シーリングに関する研究の報告より引用 

研修プログラム不合格者の動向分析

研修プログラム不合格者293名のうち都道府県と基本領域とも変更しなかった者は190名(64.8%)でした。都道府県のみ変更した者が97名(33.1%)であり、基本領域のみ変更した者は6名(2.0%)でした。
基本的には研修プログラムに不合格となっても都道府県と基本領域を変更しない場合が多く(64.8%)、都道府県のみ変更した者(33.1%)の中にはシーリングの関係で都道府県を変更せざるを得なかった者が含まれている者と思われます。

令和6年度第1回医道審議会 医師分科会医師専門研修部会資料3 シーリングに関する研究の報告より引用

卒業大学・初期研修病院・専門研修病院の所在地と専門研修修了後の勤務地の一致状況

専門研修病院と専門研修修了後の勤務地が同じ都道府県である専攻医の割合は79.9%、
初期研修病院と専門研修修了後の勤務地が同じ都道府県である専攻医の割合は65.8%、
卒業大学所在地と専門研修修了後の勤務地が同じ都道府県である専攻医の割合は50.8%でした。
専門研修を受けた都道府県がその後の勤務地として選択される傾向が強いことになります。また卒業大学所在地と専門研修後の勤務地の一致は50.8%であり、卒業生の半分は卒業大学のある都道府県以外の都道府県で専門研修後に勤務していることになります。

令和6年度第1回医道審議会 医師分科会医師専門研修部会資料3 シーリングに関する研究の報告より引用

専攻医へのアンケート調査

2020年度~2023年度に専門研修プログラムに登録した専攻医を対象としたアンケート調査が行われています。19の基本領域の専門研修プログラムに登録した専攻医が対象で、既にプログラムを修了した者も含まれていました。 有効回答数は15,857名、有効回答率は46.3%でした。

制約(シーリング)がない場合の希望

シーリングによるプログラムの募集定員枠がなく自由にプログラムを選択できた場合、16.4%の専攻医が現在の都道府県・基本領域とは異なる選択をしていたと回答しています。
その中でも専門研修病院の都道府県を変更したいと考える専攻医が13.5%、基本領域を変更したいと考える専攻医が7.1%であり、アンケート調査の結果からもシーリングが専攻医の専門研修プログラムの選択に影響を与えていると考えられます。
他の都道府県を希望した専攻医2,137名がもともと希望していた都道府県としては、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、京都府、福岡県が多く、その中でも東京都を希望した専攻医は856名でした。特に東京都においては専攻医採用人数の抑制に一定の効果があると考えられます。

専門研修修了後の希望

専門研修修了後に当該都道府県に残るかという問いに対しては、「はい(残る)」が63.1%、「いいえ(残らない)」が10.8%、「わからない」が26.0%という結果でした。希望進路としては、「専門研修を受けた医療機関の関連医局に入局(継続の場合を含む)」が最も多く、57.1%を占めています。一方で「医局には入局しない」という回答も15.6%ありました。

連携プログラム・特別地域連携プログラムで採用された専攻医に限定して、専門研修修了後に派遣されていた連携先の都道府県で勤務したいか尋ねたところ、「希望する」が21.5%、「今は希望しないが、将来的には希望したい」が10.2%という結果でした。一方で「希望しない」が34.4%であり、地域連携プログラムの連携先の都道府県が勤務希望には結び付きにくい可能性を示しています。

医師不足地域勤務に必要な支援

医師不足地域の医療機関に勤務する場合に必要な支援としては、「勤務地や待遇、住まいの調整、子供の就学案内、配偶者の就業支援など希望に添った対応を行ってくれるドクターバンク(公的な無料マッチング事業)がある」が54.7%で最も多く、次いで「休診時の代替医を派遣・調整してくれる体制がある」(54.4%)、「診療上のサポート体制がある(専門医への遠隔相談など)」(50.3%)が多かったです。

まとめ

①シーリングのある診療科では医師多数県における採用者数が抑制され、医師少数県、医師中程度県における採用者数が増加していること
②専攻医のアンケート調査で16.4%の専攻医が現在の都道府県・基本領域とは異なる選択をしていたと回答していること
などから現行のシーリング制度は医師偏在対策、専攻医の都道府県・基本領域の選択行動に一定の効果があったと考えられます。一方で医師少数県の採用者数の増加については地域によってばらつきがあり、特に東北・東海・甲信越地方の医師少数県においては、シーリングによる採用者数増加の影響があまり見られなかったと報告されています。
専攻医の基本領域優先の意向: 専攻医は都道府県を変更してでも基本領域を優先する意向が強いことがうかがえます。

 以上の結果を踏まえ、シーリングの医師偏在対策に対する効果についての調査研究では、現行のシーリングは医師の地域偏在対策において専攻医の選択行動に一定の効果があると推察されるものの、地域枠などの他の医師偏在対策の効果を除いたシーリングによる効果の解析など、更なる分析が必要であると結論づけています。また専攻医の意向等を踏まえた適切な医師偏在対策を行うことの重要性も強調しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました