患者を全人的に捉えた「総合考察」とは?
皆さんが内科専攻医の研修ではJ-Oslerに病歴要約を登録する必要があります。日本内科学会は、病歴要約の作成ガイドラインの中で、必ず「患者を全人的に捉えた『総合考察』」、「全人的考察」を記載するよう求めています。
「全人的に捉える」とは何か?
日本内科学会が求める「全人的な視点」とは病気だけを診るのではなく、その病気を持つ「患者さんその人」を診るということです。
具体的には単に主病名とその診断と治療の妥当性について医学的に論じるだけでなく、以下の側面まで踏み込んで考察することを求めています。
- 社会的側面: 職業、家族構成、経済状況、住環境など、患者さんの「生活」の背景。
- 心理的側面: 疾患に対する不安、治療の受け止め方、意思決定の過程、認知機能など。
- 倫理的側面: 患者さんの意向の尊重(ACP/DNARなど)、人権の尊重、多職種連携の必要性。
つまり病気がその患者さんの生活や人生にどのような影響を与えているか、そして我々医療者がその生活にどう寄り添い、介入したか(あるいはすべきだったか)を論じるパートです。
内科学会が求める総合考察の要素
内科学会の資料によると「総合考察」には、以下の要素を含めることが望ましいとされています。
① 医学的考察(診断・治療の妥当性)
- 主病名の確定診断に至るまでの過程、その重症度、副病名との関連を論じます。
- 診断や治療の選択がEBM(根拠に基づく医療)やガイドラインに照らして妥当であったかを客観的に評価します。
② 全人的考察(社会的・心理的・倫理的側面)
全人的な考察は主に社会的側面、心理的側面、倫理的側面の3つの要素で構成されます。これらの要素を症例の経過と関連づけて論じましょう。
- 患者さんの背景(家族、職業、経済、価値観など)が病状や治療にどう影響したかを具体的に考察します。
- 治療方針の決定において患者さんやご家族の希望をどのように考慮し、共有意思決定(Shared Desission Making)を行ったかを記載します。
- 退院後の生活を見据えた多職種連携(ソーシャルワーカー、訪問看護など)の必要性についても言及します。
社会的側面に踏み込んだ記述
患者の生活環境、職業、経済状況、家族構成などが、病状や治療にどう影響したかを具体的に記述します。
| 要素 | 記述例(ポイント) |
| 環境と治療 | 「患者は一人暮らしで、認知機能の低下もあったため、インスリン自己注射の厳密な自己管理は困難と判断し、内服薬中心の治療方針に変更した。(→ 患者の生活背景に合わせた治療選択)」 |
| 社会資源の活用 | 「退院後の服薬管理と栄養面でのサポートが必須であったため、地域連携パスを活用し、退院前から介護保険申請と訪問看護の導入を多職種と連携して準備した。(→ 多職種連携と社会資源の活用)」 |
| 経済的側面 | 「高額な新薬を提示したが、患者は年金生活で自己負担が困難である旨を訴えたため、経済的な負担も考慮し、より安価で効果が期待できる薬剤を提案し、合意を得た。(→ 経済的要因の考慮)」 |
心理的側面に踏み込んだ記述
疾患や治療に対する不安、抑うつ、意思決定の過程、価値観などを考察し、どのように対応したかを記述します。
| 要素 | 記述例(ポイント) |
| 病気への受容 | 「大腸癌の告知後、患者は一時的に治療への意欲を喪失したが、病棟のリエゾンナースと連携して傾聴の時間を確保した結果、改めて治療に前向きな姿勢を取り戻すことができた。(→ 心理的サポートと多職種連携)」 |
| 意思決定 | 「複数の治療選択肢(手術か放射線治療か)について、患者の『家族に迷惑をかけたくない』という価値観を尊重し、時間をかけて話し合い、SDM(Shared Decision Making)を経て最終的な方針を決定した。(→ 患者の価値観尊重とSDM)」 |
| 予後への不安 | 「慢性疾患である心不全の再燃を繰り返す中、患者は将来への不安を強く訴えていたため、退院前に外来での生活指導を具体的に行い、不安の軽減を図った。(→ 予後への不安と教育的介入)」 |
倫理的側面に踏み込んだ記述
延命治療に関する意向(ACP/DNAR)や情報の開示、自律性の尊重など倫理的な判断について記述します。
| 要素 | 記述例(ポイント) |
| ACPの実施 | 「病状悪化の可能性があるため、患者と家族に対して、ACP(人生の最終段階における医療に関する話し合い)を複数回実施し、患者の明確なDNARの意向を確認し、診療録に記載した。(→ 患者の自律性の尊重とACPのプロセス)」 |
| インフォームド・コンセント | 「副作用のリスクが高い治療法であったため、患者が十分に理解できるよう、平易な言葉で説明資料も活用し、治療の必要性と代替案について、時間をかけて説明責任を果たした。(→ 質の高いインフォームド・コンセントの実行)」 |
まとめ
「総合考察」は内専門医として求められる医学的知識と、患者さんに寄り添う倫理的・社会的な態度の両方を兼ね備えているかを評価されます。
病歴要約を作成する際は「全人的に捉えた総合考察」を意識して患者さんの個別の状況にあった考察を記述するように努めてください。


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